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第1部 効率向上とコスト低下進め2015年離陸へ

 太陽電池が注目を集めている。太陽電池自体は最初期の人工衛星に利用されてからすでに50年が経過した「古い」技術だ。Si(シリコン)などのpn接合を利用して発電するという技術の基礎も同じだ。

 その太陽電池市場は、ここに来て急速に膨らんでいる。生産規模の伸びが著しい。全世界の年産規模は、2002年の500MW(50万kW)に対して、2004年は約1000MW、2006年は2000MWを大きく超過し、2007年は3733MWに達した。加速度的な勢いがある。

 市場が膨らんだ主な理由は、政策的な力が働いていることだ。経済的な合理性によるものではない。従来の火力、水力、原子力発電に比べて太陽電池の発電コスト*1)は依然として約2倍である。東京電力と契約した場合、基本料金などを除き、1kWh当たり22.86円で電力を購入できるが、太陽電池を使うと45~46円かかる。「現在の太陽電池市場は自発的に出現した自由な市場ではなく、政策主導の人工的な市場である」(資源総合システムで代表取締役社長を務める一木修氏)。

 太陽光発電普及の最大の推進力となっているのが欧州を中止に広がる「フィードイン・タリフ」制度(Feed-In Tariff:FIT)である。FIT制度は再生可能エネルギーを普及させ、技術開発を促すことを意図した制度である。ドイツが最初に採用し、現在では約50の国と地域に広がっている*2)。FIT制度の目的は、二酸化炭素排出量の削減と、化石燃料の枯渇を見越して太陽電池などの生産規模を拡大すること。現在の電力会社が販売する火力発電などの水準まで太陽光発電の発電コストを下げることを目指す。

 FIT制度の効果は明らかだ。三洋電機によると、2003年に日本市場とほぼ同規模だった欧州市場は、2007年には日本市場の5倍に成長したという。世界市場規模が4.5GWに達すると予想されている2010年には日本市場の6倍になる見込みだ。2010年には、欧州市場は全世界の6割を占めると見られる。

 スウェーデンLund University配下のInternational Institute for Industrial Environmental Economics(IIIEE)で教授を務めるThomas B. Johansson氏によると、各種再生可能エネルギーの習熟曲線は、総発電容量と機器コストを両対数グラフで表現すると直線になるという*3)†1)。太陽光発電についても発電容量と太陽電池の機器コストは1981~2000年の期間において、両対数グラフで直線となっている。この傾向から、全世界の累積設置量が10GWに達したときに機器コストは2000米ドル弱/kW、そして2007年の約27倍の規模に相当する100 GWでは800米ドル弱/kWを実現できることになる。普及ペースさえ鈍らなければ、数年以内に火力発電よりも発電コストが安くなる。

 太陽光発電の発電コストと既存の電力会社による従来の電力コストが同一になる時点(グリッド・パリティ)はいつだろうか。ドイツのミュンヘンで2008年6月に開催された展示会「Intersolar 2008」では、2012年や2015年という水準が話題に上った。「従来の発電方法の電力コストが今後上昇することを考慮にいれても、2012年は難しいが、2015年はターゲットに入る」(三洋電機のソーラー事業部で事業企画部の担当部長を務める脇坂健一郎氏)。「46円/kWhのうち、太陽電池モジュール自体の現在の機器コストは半分の23円だ。2010年3月に稼働する堺工場では、太陽電池モジュールのコストを原価ベースで従来の1/2に抑える」(シャープで経営管理兼ソーラー事業担当副社長兼堺コンビナート建設推進本部長を務める濱野稔重氏)。

 ひとたびグリッド・パリティが達成されれば、その後は政府の政策支援がなくても、従来の発電方法から太陽光発電へと爆発的に置き換わるだろう。

 シャープの代表取締役会長でCEOも務める町田勝彦氏は、「世界の認識は太陽電池モジュール=石油、太陽光発電所=油田というものだ。太陽光発電所を作るということは、自国内に油田を掘ることと同じとも言える。海外の政府関係者から入ってくる商談は、自国に太陽光発電所や太陽電池工場を設置したいというもの。中東からも引き合いがある」と言う(第2部「クリーン・エネルギー立国目指すアブダビ」を参照)。

制度の違いが到達速度を変える

 2005年時点の太陽電池の世界生産量上位5社は順に、シャープ、ドイツQ-Cells社(図1)、京セラ、三洋電機、三菱電機である。これが2007年にはQ-Cells社、シャープ、中国Suntech社、京セラ、米First Solar社に変わった。日本勢の落ち込みが著しい。
 

図1

図1 ドイツQ-Cells社の太陽電池セル
「2008年は2007年比50%増の570M~600MWを生産する」(Q-Cellsジャパン代表のBjorn Sandberg氏)。同社はセル専業メーカーだ。生産量の95%を占めるのが多結晶Siを用いた図の「Q6LTT」(156mm×156 mm)である。2008年末にはSi厚160μmのセルの量産を開始する。

 

 

 理由は2つある。まず海外メーカーが、FIT制度が生きる欧州市場などへ向けて積極的に投資を重ねたことである。例えばQ-Cells社の生産量は、2005年から2007年の2年で年率50%以上伸びている。Suntech社は100%前後だ。さらに、株式公開(IPO)で資金を集め、太陽電池の製造装置メーカーから完成品としてすぐに利用可能なターンキー・システムを購入し、市場に参加するメーカーが急増している。例えば薄膜Si太陽電池を製造する米Applied Materials社の「SunFab」装置(図2)は、5.7m2のガラス基板上に太陽電池を一括成膜できる。同社は2010年までに1W当たり1米ドルの発電コストを目指すとする。
 

図2

図2 5.7m2のガラス基板上に成膜後、電源コネクタなどを取り付けた太陽電池モジュール

 

米Applied Materials社の「SunFab」装置によって製造された。

 

 一方、日本では2005年に補助金制度が廃止されたため、国内市場がほとんど伸びなくなり、2007年にはマイナス成長に陥った*4)。現在、日本はRPS(Renewables Portfolio Standard)制度を採る。再生可能エネルギーの利用量を義務付ける法制度だ。ただしRPS制度がFIT制度よりも優れているという声は少ない。例えば、産業技術総合研究所太陽光発電研究センターの化合物薄膜チーム研究員である櫻井啓一郎氏は、「電力会社に太陽光発電の利用量を義務付けるだけでは、計画的な太陽光発電の普及が望めず、FIT制度に比べて効果が薄い」と言う(別掲記事「FIT制度のメリット」を参照)。

 日本企業の落ち込みは、Si材料の高騰も影響している。2007年に世界で出荷された全太陽電池のうち、45%を多結晶Si型が占めた。「2002年~2003年のSi不況時に25米ドル/kgだった多結晶Siの長期購入契約価格は、2006年に70~80米ドル/kgまで値上がりした」(シャープの濱野氏)。Si材料自体を生産していない日本企業は、特に強い影響を受けたことになる。

 このほか、上位の日本企業は太陽電池専業ではないため、専業メーカーに比べて投資が分散され、ほかの事業部門の好/不況に影響を受けやすいことも大規模投資に踏み切りにくい理由である。

変換効率向上が鍵

 FIT制度をうまく利用し、太陽電池の普及を進めるには大きく分けて2つの手法がある。まずは大面積/低コストの太陽光発電機器を量産することだ。

 もう1つは太陽電池の変換効率、すなわち単位面積当たりの発電量を増やす努力を重ねることである。FIT制度においても、農耕地など有効利用できる土地のタリフは小さく、住宅の屋根などほかの利用形態が見つからない土地のタリフは大きく設定されている。個人住宅の所有者にとって、屋根の面積は貴重な資産だ。太陽電池は屋根の面積を電力(金銭)に変える装置と考えられる。

 変換効率が高ければ高いほど、より小さい面積で大きな電力が得られる。このように考えると、「他社製品に比べて変換効率が1/2でも、その製造コストが1/2なら十分競争できる」という考えは通用しにくいことが分かる。「変換効率が太陽電池の命だ。その点は、日本の一般住宅向けにしても、FIT向けにしても同じだ」(三洋電機の脇坂氏)。「大面積製造を売り物にした装置があるが、高い変換効率を実現するために必要な多層膜構造を量産できるのか疑問だ」(シャープの濱野氏)。

変換効率を上げる

 このように太陽電池が火力発電と競合するには、製造コストを下げると同時に、変換効率の向上が避けて通れない。

 変換効率を上げる手法は様々だ。手法は大きく分けて2つある。(1)変換効率の高い材料や構造を開発すること、(2)多接合(タンデム)を形成することで光を有効利用すること、である。

 太陽電池は、材料となる半導体のバンド・ギャップよりもエネルギーが高い(波長の短い)光子を吸収し、電子と正孔の対を生成することで電流を取り出す装置だ。従って、太陽光スペクトルに合致したバンド・ギャップを持つ材料を利用することが前提となる(表1)。単一の化合物では現時点で最も適した材料が、単結晶SiとGaAs(ガリウム・ヒ素)、CdTe(カドミウム・テルル)だ。理論変換効率はいずれも25%を超える。CdTeはCd(カドミウム)、GaAsはAs(ヒ素)という毒性のある元素を使うことなどが理由で、あまり使われていない。現在はSiを使う太陽電池が全生産量の95%を占める。残りの5%弱を占めるのは、First Solar社が採用しているCdTeだ。
 

表1

表1 主な太陽電池方式

 

 Siを利用する場合、変換効率だけを考えると単結晶Siが望ましい。しかし、単結晶Siの製造コストがかさむ。このため単結晶Siを採用した太陽電池は、2007年に全生産量の4割を下回った。

 一方、多結晶Siの弱点は変換効率が単結晶Siよりも低いことだ。結晶界面で一部の電子と正孔の対が失われることによる。単結晶Siの25%に対し、試作レベルでは最高変換効率が18.5%(京セラの150mm角セルの場合)、商品では16.5%(同)である。

 多結晶Siの変換効率向上のペースは鈍ってきており、20%が1つの山だと考えられている。「多結晶Siは今後、変換効率20%を達成できたときに大型投資を実施する。20%以下の時点で投資するのは意味がない」(シャープの濱野氏)。

 三洋電機の太陽電池は、単結晶Siとも多結晶Siとも異なる独自のHIT(Heterojunction with Intrinsic Thin-layer)構造を採る。n型の単結晶Si基板上に、プラズマCVDを用いてアモルファスSiからなるi層とp層を形成する。i層は電子と正孔の対が界面で再結合することを防ぐ役目を担う。

 HITではp層とn層の間に不純物を含まないi層を形成することで、22.3%の変換効率を達成したとする(100 mm角セルの場合)*5)。2010年には研究レベルで23 %、量産レベルで22%という目標を掲げる。

 そのための手法として、単結晶Si界面の清浄化と、光閉じ込め技術の最適化を進める。HITでは単結晶Si上にアモルファスSi層を成膜する。原子の配列が異なるため、どうしても汚れや欠陥が発生し、電子と正孔の対が失われる。これを低減する。HITでは、i層を追加したことだけでなく、n層表面に製造時に形成される、すきまなく並ぶ直径10μm程度の円すい状の構造を利用する。垂直に入射した光が、n層で斜めに長距離移動すること、n層に入った光が内部で反射したとしても再度乱反射することを利用する。

 「円すいの頂上には膜が付きにくく、すそ野には成膜中の余分な材料が残留しやすい。これを防ぐようプロセス技術を改良する。円すい頂点の角度にも工夫の余地がある」(三洋電機の脇坂氏)。

多接合で60%を目指す

 太陽電池では、半導体のバンド・ギャプよりも低いエネルギーを持つ光子(波長の長い光子)は全く利用できない。例えばGaAsでは867nm、Siでは1117nmが限界になる。

 従って性質の異なるごく薄いpn接合を複数層重ねる多接合が役立つ。最上位にバンド・ギャップが大きく短波長を受ける層、次にそれよりもバンド・ギャップが小さく長波長側を受ける層というように積層すれば、単位面積当たりの変換効率を上げられる。アモルファスSiだけであっても、バンド・ギャップを調整することで多接合化は可能だ。「現時点でもコストを度外視すれば、変換効率40%を実現できる。この値は、太陽電池自動車が実現できるほど高い変換効率だ」(シャープで技術担当取締役専務執行役員を務める太田賢司氏)(図3)。
 

図3

図3 ソーラー・カー「アポロンディーヌ号」
シャープが製造した変換効率17%の単結晶Si太陽電池セル(出力480W)と水素燃料電池を組み合わせた。走行距離4004kmとなるオーストラリア大陸横断に成功した車体。全長4000mm、重量220kg。玉川大学が製造した。

 

 

低コスト化を進める

 低コスト化を進めるには、(1)Si原料の安定調達、(2)Si以外の材料の採用、(3)使用するSi材料の低減、という3つの手法がある。

 日本企業では、京セラが(1)の手法を採った。同社は2007年にSi材料メーカーと多年度にわたる長期供給契約を結んだ。一方で、「長期契約は材料のコストを下げられず、例えばFIT制度に追従できないと判断した。当社は多結晶Siの長期契約を一切止めた」(シャープの濱野氏)というメーカーもある。

 (2)のSi以外の材料では、化合物系として実用化されているCIS(銅インジウム・セレン)やCIGS(銅インジウム・ガリウム・セレン)が有力である。いずれも光吸収層の膜厚は数μmであるため、希少なIn(インジウム)の使用量も「同サイズの液晶パネルの電極に使われる量よりも少ない」(産業技術総合研究所太陽光発電研究センターの化合物薄膜チーム研究員である石塚尚吾氏)。

 CIGS系材料を使った太陽電池は、ホンダが量産を開始している。「2007年12月から一般住宅向けに出荷を開始し、現在までに200件を受注した」(本田技研工業の汎用事業本部ソーラーシステム事業企画室で室長営業主幹を務める古川潤一郎氏)(図4)。
 

図4

図4 ホンダのCIGS系太陽電池モジュール
本田技研工業の子会社であるホンダエンジニアリングが太陽電池セルを製造し、ホンダソルテックがセルを組み合わせたモジュール製造と販売を手掛ける。変換効率は12%である。

 

 

 CIS系材料を使った太陽電池は、昭和シェル石油と昭和シェルソーラーが、成膜装置メーカーであるアルバックと共同で、2008年7月に量産技術の共同開発を開始した。CIS太陽電池の現在の年産規模は20MWであり、2009年には80MW、2011年には1000MWを目指すとした。ただし、昭和シェル石油の発表は、他社には意外感があるようだ。「発表が唐突であり、量産規模もコメントできないくらい多いと感じる」(三洋電機の脇坂氏)。

 一方、上記(3)に挙げたSi材料の低減手法は、さらに2つに分かれる。多結晶Siの基板厚を薄くする方法と、薄膜化を進める方法である。

 基板厚の論理は単純だ。Si基板を薄くできれば、部材コストを下げられる。「現在のウエハー厚は180μm。これを薄くすればコスト・ダウンになる。実験室レベルでは50μm厚も可能だが、まだ量産できない。次は160 μmがめどになる」(シャープの濱野氏)。

 薄膜化はメーカーによって判断が分かれた。製造コスト自体は多結晶Siよりも薄膜系が下回る。Si利用量自体が薄膜化によって1/100に抑えられるからだ。ただし、成膜装置に多額の投資が必要になる。

 このため京セラとシャープ、三洋電機では判断が分かれた。京セラは従来の多結晶Si以外の薄膜Siの計画について何も明らかにしていない。これに対して三洋電機は、現在のHITを継続しながらも、岐阜県にある同社の先進太陽光開発センターで2008年4月に実証研究を開始しており、薄膜Si系ビジネスに参入するとした。一方のシャープは、現在多結晶Siと薄膜系を両立させてはいるが、多結晶Siが中心である。しかし、2010年4月に稼働を開始する堺工場では薄膜Siを量産する。

薄膜で太陽光発電所を作る

 シャープは、薄膜系を製造する太陽電池工場の母型を作り、工場自体を世界各国に輸出する計画だ。「海外に移転するためのモデル工場であり、堺をマザー工場として他国に移転する」とした。具体的には堺市の海浜(堺浜地区)にある127万m2の土地を利用し、関西電力と協力して液晶パネル製造工場と年産480MWの太陽電池工場を併設する。液晶パネル工場と併設する理由は、SiH4(シラン・ガス)設備、純水、電力などインフラを共通化し、太陽電池の製造コストを引き下げるためだ。

 太陽電池モジュールの大きさは1400mm×1000 mmである。現在は、アモルファスSi層上に微結晶Si層を形成した2層構造を採るが、堺工場ではさらにその上にアモルファスSi層をもう1層増やす。3層(n層、i層、p層)にすることで効率10%を達成するとした。

 10%という効率は多結晶Siの16%と比べると低い。だが「製造に必要なエネルギー・コストは多結晶Siの66%に抑えることができる」(シャープの濱野氏)。効率とコストのバランスを採った。

 多結晶Siではなく、薄膜で量産する理由はもう1つある。太陽光発電に占める太陽電池モジュールのコストは1/2(23円/kWh)にすぎない。残りの半分は施工工事費とBOS(Balance of Systems)である。BOSにはモジュールの架台や支持金具、配線、ブレーカ、パワー・コンディショナ(D-A変換器)、インバータ、2次電池設備などの費用が含まれる(図5)。「薄膜にこだわったのは、太陽電池モジュール以外の部分にかかっているコストである23円を1/2にするためだ。薄膜であれば電池間の接続を並列にできる。住宅用の建材として組み込める設計も可能だろう」(濱野氏)。
 

図5

図5 発電能力を示すカラー表示ユニット
昭和シェルソーラーの「SDP 0301」。各種情報を遠隔表示できる。ただし、太陽電池モジュールやパワーコンディショナとは異なり、発電、電力の利用に必須の機器ではない。

 

 

 薄膜は単位面積当たりの発電量が多結晶Siより低い。「同じ電力を得るためには1.5倍の面積が必要になるため、太陽光発電所や工場の屋根など広い面積を確保できるところに薄膜系を敷き詰める。住宅向けは多結晶Siが適している」とした。

新方式は紫外線が問題に

 Si系や、CIGSなどの化合物系以外にも研究段階ながら2種類の太陽電池が有望視されている。有機薄膜系と色素増感系太陽電池である。有機薄膜系はp型半導体とn型半導体のそれぞれに有機物を使う(図6)。小面積の太陽電池セルと集光装置を組み合わせた方式に向けた用途もある(第3部「ガラス窓を太陽電池に有効活用、MITが技術を開発」を参照)。
 

図6

図6 葉の形状を採る有機薄膜系太陽電池パネル
産業技術総合研究所と三菱商事、トッキが開発した。n型材料にC60(フラーレン)を、p型材料にCuPc(フタロシアニン)を用いた。有機薄膜太陽電池の表面は緑色であるため、観葉植物を模した形状とした。水や酸素などから材料を保護する膜も成形した。太陽電池の合計面積は、約60cm2(中央)。

 

 

 色素増感系は、TiO2(二酸化チタン)の表面に吸着した色素が可視光を吸収し、それによって励起した電子がTiO2側に移動する現象を利用する。電子を失った色素はI(ヨウ化物イオン)から電子を受け取る。写真フィルムの原理と似ている。

 ただし、両方式ともSi系や化合物系とは異なり、紫外線に弱い。そのためSi系などとは異なる用途が考案されている。

 「社内の研究でも有機薄膜系の変換効率はある程度出ているものの、寿命が短く製品化にはほど遠い。しかしペンキのように使える有機薄膜系太陽電池が完成すれば、場所の制約がなく使えるため、用途が一気に広がる」(シャープの濱野氏)。「有機EL事業を推進していた時期があったため、HIT、2010年以降に加わる薄膜Si系、その次の有機薄膜系という3ステップで事業化を考え、研究開発を進めている。ただし、紫外線で分解される問題があるため、太陽光ではなく蛍光灯下で使う民生用になるだろう」(三洋電機の脇坂氏)。

 三菱化学は塗布型有機薄膜太陽電池に注力している(図7)。製造プロセスとしては、ロール・ツー・ロール型を目指す。2008年に、変換効率4.1%を達成した。基板、ITO(酸化インジウム・スズ)電極、正孔注入層(PEDOT/PSS)、低分子のテトラベンゾポルフィリン層(BP、p型)、BPとフラーレン(FLN)の混在層、FLN層(n型)、緩衝層(バトクプロイン、BCP)、Al(アルミニウム)電極という構成を採る。電極以外の全膜厚は200nmと薄い。
 

図7

図7 三菱化学の有機薄膜系太陽電池材料
液体であるため塗布によって成膜できる。前駆体(赤色)を塗布直後、加熱することで半導体膜(緑色)となる。

 

 

 p層とn層の中間に混在層を置くことで3層構成とし、接合界面の面積を増やしたことで効率が上がる。「分子設計によって長波長側の光を捕らえ、2010年には試作品として変換効率7%を実現する。界面の設計や抵抗成分の除去により、2015年に変換効率15%を目指す」(三菱化学科学技術センターR&D部門太陽電池プロジェクト主席研究員の米山孝裕氏)。

 色素増感系についても有機薄膜系と似た問題を抱える。「有機薄膜と色素増感であれば、色素増感が技術的に有望だ。実験室レベルなら当社でも変換効率11%が達成できている。ただし、やはり寿命が問題となる」(シャープの濱野氏)。

最後に残る課題は蓄電

 太陽電池の変換効率向上と製造コスト低下によって、2010年代にグリッド・パリティを満たした後、最後に残る問題が蓄電機能だ。太陽電池は電池といっても、電力を蓄える機能を一切備えていない。さらに発電量は天候任せで、火力発電などと異なり制御できない。

 このため、既存の配電システムと組み合わせる(系統連携)か、電力を蓄える機器と組み合わせる必要がある。欧州では電力供給網が発達し、国境を越え、各種方式で発電した電力を自由にやり取りできる。

 蓄電池にはさらなる技術開発が必要だ。リチウムイオン2次電池が有望だが、体積(エネルギ密度)、充放電回数、コストの3点にいずれも問題がある。「現在の技術では鉛蓄電池を使うしかない。リチウムイオン2次電池を使うなら家庭内に設置できる程度に小型化し、さらに充放電回数が現在のような1000回ではなく5000~7000回に向上させる必要がある」(シャープの濱野氏)。「個人の住宅内でエネルギー収支を合わせるには、3k~6kWh*6)の蓄電性能が必要だが、現在のコストでは太陽電池システムの価格が例えば2倍になってしまい意味がない」(同氏)。このため、エリーパワーと共同で太陽光発電システムと連携する大型リチウムイオン2次電池の量産技術について共同開発に乗り出した。

 リチウムイオン2次電池最大手の三洋電機は、シャープと異なり計画を明らかにしていない。「太陽電池は現在コストありきになっているため、蓄電池を追加することは難しいものの、リチウムイオン2次電池やニッケル水素2次電池と太陽電池の組み合わせについて今後開発する方針だ」(三洋電機の脇坂氏)とした。

家電との組み合わせはいまだ見えず

 エネルギー問題以外に太陽電池に望まれている役割がある。携帯型機器の電源だ。そもそも1978年に最初に民生機器に組み込まれたときから、太陽電池は電卓用電源として広く使われてきている。

 現在、太陽電池が携帯電話機やノート・パソコンの電源に使われていないのは、単純に室内光のエネルギーが低すぎるからだ。室内光は明るいオフィスであっても500lx(ルクス)程度。一方屋外は10万lxである。室内で利用するためには、太陽電池の面積を200倍にするか、機器の消費電力を1/200に抑えるか、両者を組み合わせ、かつ変換効率を高めるしかない。電卓は、1mWを大きく下まわる消費電力の小ささが効いている。

 同じ理由で、屋外であっても小型のチップ上に回路と太陽電池を形成することは難しい。ただし、特定用途では可能性があるようだ。例えば1チップで自律動作するワイヤレス・センサー・ネットワークのノード向けLSIである。電源を内蔵することにより、メンテナンスの必要がなくなるというメリットがあるという。東京大学生産技術研究所の教授である高宮真氏によると、「特定LSI向けデジタル回路は数100kHz動作で1μWが実現できるが、アナログ回路は1mWと消費電力が大きく動作時にのみ通電するなどの工夫が必要である」という(図8)。
 

図8

図8 東京大学生産技術研究所で試作したワイヤレス・センサー・ネットワーク向けのLSI
1mm×2mmのダイ上に太陽電池が12個形成されている。Si基板上にpn接合を絶縁膜によって形成した場合、2万4400lx下において3.5μW/mm2の電力を得、11段のリング・オシレータを機能させた。

 

 

 

FIT制度のメリット

 FIT制度では、太陽電池の発電量に応じた電力の買い取り価格(タリフ)を法律で保証する。しかも、いったん買い取りを開始したら、その後10~20年間、買い取り価格を変えない。購入時に補助金を支給する政策や、税額の免除と比べ、太陽電池が利益を生む効果がユーザーに伝わりやすい。このため、耕作地(屋根)を借り入れて果樹を栽培(太陽電池を敷設)し、収穫物(電力)を販売するという農業のビジネス・モデルと似た動きが欧州各地で広がっている。

 さらにFIT制度では、(1)導入時期が古いほど買い取り価格が高く、(2)1年ごとに電力の固定買い取り価格を、例えば5%ずつ下げる制度を採っている。そのため、早期に太陽電池を導入するほど、高い価格で電力を売却できることになる。

 購入時期を考慮する理由は買い控えを抑えるためだ。太陽電池は、新しいほど性能が高く発電量が大きいことは当然だと考えられている。購入時期を考慮しないと、将来にわたる電力の買い取り額の総計を計算した結果、「今年よりも来年、太陽電池を導入した方が有利だ」という結論が毎年のようにでてしまい、導入が進まなくなる。上記の特徴を持つFIT制度下であれば、太陽電池の低価格化や高効率化を待たなくても、今すぐ敷設することが有利になる。

 さらに(2)のように買い取り価格を毎年下げることで、太陽電池機器メーカーのコスト削減を強制できる。単位発電量当たりに支払われる金額が毎年同じなら、メーカー側に製造コストを削減する理由がなくなってしまうからだ。「FIT制度のいう年率5%のコスト削減には追従できる」(三洋電機の脇坂氏)。

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