【ISSCC 2009】人体無線網からDNA検査装置まで、無線チップが医療用途へ
「医療関連のアプリケーションに向けて、RF CMOS技術の適用が始まっている。その範囲は、イメージングからDNA検査、人体の周辺や内部をネットワークする通信網に至るまで幅広い。こうしたアプリケーションを半導体業界の市場として見ると、全体としては間違いなく成長している。ただし現在のところ、市場はアプリケーションごとに分断されている」――米カリフォルニア州サンフランシスコで開催中の半導体関連の国際学会「ISSCC 2009」(2009年2月8~12日)で、9日からの論文セッションに先立って8日の日曜日の夜に開催されたイブニング・セッション「Healthy Radios:Radio & Microwave Devices for the Health Sciences」では、登壇したパネリストたちがこのような結論を出した。
パネリストたちは、体内埋め込み型医療器具(インプラント)や人体通信網(BAN:ボディ・エリア・ネットワーク)デバイスに無線通信技術を適用することを目指して、幅広い範囲の研究や商用化に向けた取り組みが始まっている現状を説明した。また、携帯型DNA検査装置やこれまで以上に優れた医療用イメージング・システムを実現するために、無線利用の技術が進展している様子を示した。
このイブニング・セッションは、200人以上の聴衆で満員になっており、ISSCC参加者の関心の高さをうかがわせた。しかし参加者の一部は、半導体ベンダーにとっての市場機会という観点から、医療向けアプリケーションは細分化されすぎていると指摘した。
聴衆のひとりは質疑応答の際に、「われわれの多くは、半導体産業の次なる大きな潮流(the next big thing)は医療関連のアプリケーションにあると考えており、それがこの会場に足を運んだ理由だ。しかし、数十万ユニットから百万ユニットといった出荷規模を期待できそうなアプリケーションは見当たらない。携帯電話機が年間に何十億台も出荷されているのとは違う」と述べた。
パネリストのひとりで米Harvard Universityの研究者であるDonhee Ham氏は、「もし『使い捨てセンサー』というシナリオを選べば、市場は極めて大きくなる。あるいは、診断システムを安価に大量生産できれば、世界においてヘルスケアを現在は十分に提供されていない地域にも、提供できるようになる」と述べた。
さらに、米University of Washington, Seattleの教授で、このセッションのチェアマンを務めたJacques Rudell氏は、「非常に数多くのアプリケーションがあり、それらはそこかしこに転がっている。そのため、いずれが大きく成長するのか見極めるのは難しい」と付け加えた。
心臓ペース・メーカーなどを手掛ける医療機器メーカーの米Medtronic社でテクニカル・フェローを務めるJavaid Masoud氏は、同社が心臓疾患に向けたインプラント・デバイスの通信リンクとして無線技術をどのように活用しているかを説明した。同社は、402M~405MHz帯を利用する医療機器向け無線通信の標準規格「Medical Implant Communications Services(MICS)」の開発に携わった企業の1つである。
同社は、MICSを同社として初めて採用した心臓疾患向けデバイスを2006年5月に投入しており、2008年7月の時点ですでに12万8000個以上が患者に埋め込まれているという。MICS対応チップについては、すでにカナダZarlink Semiconductor社などの半導体ベンダーが出荷を始めているが、Medtronic社のこのデバイスではMedtronic社が独自に開発したという。「当社(Medtronic社)は、無線回路とアンテナ、ベースバンド・チップと通信プロトコルを社内で設計した。当社はほかにないアプリケーションを手掛けており、従って自社で開発する必要があると考えていた」とMasoud氏は述べた。
同社は現在、糖尿病からパーキンソン病に至るまで、さまざまな疾病に向けて現在開発を進めているインプラント・デバイスのうち、10を超える機種にMICSを採用しているという。
パネリストのひとりであるUniversity of WashingtonのBrian Otis氏は、今回のISSCCの論文セッションにおいて、RF技術を幅広い用途に向けたボディ・エリア・ネットワークを実現するために使う取り組みについて発表した。「現在は、動物を対象とするボディ・エリア・ネットワークの研究が活発である」(同氏)という。例えば、実験用ネズミの脳波の研究から、野生のスズメがさえずり方をどのように学習するかの研究に至るまで、RFセンサー・ネットワークが活用されている。人間を対象とする応用には、高齢者介護や眼内インプラント、神経疾患がある患者の脳信号モニターに向けたRFセンサー・ネットワークなどがあるという。
一般にこうしたアプリケーションでは、コストと消費電力、重量のすべてを低く抑えたモジュールが求められる。こうした要求に応えるため、汎用プロセッサを使わずにアナログ信号処理やデジタル信号処理を活用したり、電池の代わりにエネルギ・ハーベスト(環境発電)技術を使ったり、受動部品やMEMSデバイスを利用することで無線機能を実現する研究が進んでいるという。
医療用イメージングやDNA検査に市場機会
医療アプリケーションの市場について、パネリストのひとりであり、技術イベントを主催するカナダCMOS Emerging Technologies社のKris Iniewski氏は、「医療テスト/イメージング・システムの市場は、年間300億米ドルと見られているが、DNA検査装置が普及すれば1000億米ドルを超える規模まで拡大する可能性がある」と述べた。
同氏は、医療アプリケーションは「半導体チップの設計者に過小評価されている」と指摘し、「(医療機器を手掛ける)オランダRoyal Philips Electronics社やドイツSiemens社、米General Electric社などのメーカーは数多くのASICを供給しているが、標準品はわずかしかない」と付け加えた。
同氏は、1990年代に通信システムの分野で生じた「ASICからASSPへ」という変化が、今後数年間のうちに医療用テスト装置の分野でも起きると予想する。例えば、MRIシステムでは価格を200万米ドル引き下げられる部品が必要で、CTスキャナでは感度をさらに高められるような部品が求められているという。
「わたしが良く知る製品の多くは、0.18μm~0.35μmのプロセス技術で製造したチップを使っている。従って、最先端のプロセス技術は不要だ」と同氏は付け加えた。
Harvard UniversityのHam氏は、デスクトップ・パソコン2台に相当する大きさの既存システムよりも感度の高い携帯型DNA検査装置について説明した。この携帯型装置は、1枚のCMOS RFチップとサイズが大型のボトル・キャップ程度でコストが3米ドルの磁石を使って、核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)機能を実現しているという。
この携帯型装置は、「ピコ分子(pico-molecular)」レベルの感度を備えており、40兆個の水分子に混ざった1個のタンパク質を検出できるという。環境汚染物質をチェックするほか、がんや糖尿病などの疾病を診断する用途に使えるとしている。
「われわれは現在、このシステムをHarvard Medical Schoolやほかの地域の病院で臨床試験に使うことを議論している」とHam氏は言う。「このシステムが実際のアプリケーションを見出せることを望んでいる」(同氏)。
米California Institute of Technologyの研究者らは、この分野における成果を論文セッションで発表した(講演番号は25.6)。単一ビーズ感度を備えた周波数シフト方式の磁気バイオセンサーに関する発表である。大型で高価な今日のマイクロアレイDNA検査装置の置き換えを目指すという。
同大学の電子工学科の教授で、イブニング・セッションの共同オーガナイザを務めたAli Hajimiri氏は、この研究の目的について「持ち運びできるバイオセンサーの実現を狙う。オーダーメード医療のほか、危険物質の検出や診断に使える可能性がある」と述べた。
【関連記事】
・ 活用始まる人体無線網、ヘルスケアから新市場が立ち上がる(2008/12/15)
(Rick Merritt:EE Times、翻訳/編集:EE Times Japan)
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