屋内でも位置情報取得を可能に、GPS関連技術の開発進む

図1 日立製作所が開発した組み込み型のGPS送信機モジュール
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が考案した屋内向けの位置測位方式「IMES」に対応する。建物内部の照明器具や非常灯、無線基地局に組み込みやすいように、小型化と低消費電力化を図った。出典:日立製作所

図2 位置精度を動的に変えて消費電力を削減
(a)英Air Semiconductor社が2009年3月にサンプル出荷を開始したGPS受信IC「Airwave-1」
(b)採用した位置測位技術の模式図。GPS信号を継続的に受信して、位置情報を常に保持しておく。
(b)は英Air Semiconductor社の資料を基に本誌が作成

 GPS衛星から出力された信号を受信して位置情報を得るGPS機能。携帯電話機に広く普及しつつあるものの、地下街や建物の内部では位置情報が得にくいという大きな弱点がある。「これが屋外や屋内といった場所を問わないシームレスな位置情報活用サービスの普及を阻害する要因である。例えば、屋外では動作していたのに、地下街に入るとうまく動作しなくなるのでは、利用者は困ってしまう」(日立製作所システム開発研究所ユビキタスネットワーク研究センタの主任研究員である江端智一氏)。

「GPSの泣きどころ」であるこの弱点の克服に向けて、現在さまざまな取り組みが着々と進んでいる。例えば日立製作所は、屋内での測位を可能にするとうたうGPS送信モジュールを開発した。「IMES(Indoor MEssaging System)」と呼ぶ方式に対応したもので、GPS信号の互換信号(「屋内GPS信号」と呼ぶ)を送信する。携帯端末ではこの屋内GPS信号を受信することで、建物内部や地下街でも位置情報が得られる。IMES信号を受信するために必要な携帯端末の設計変更は、ごくわずかだという。「GPS機能の利用シーンは屋外よりも屋内の方が多い。屋内で確実に測位可能とすることは、重要度が非常に高い項目だ」(同氏)。

機器への組み込みが可能に
そもそもIMES方式とは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が考案したもので、GPS信号と同じデータ構造を使う。周波数帯も同じである。GPS信号は、衛星が出力した時刻情報を含んでいるのに対して、IMES信号では送信モジュールにあらかじめ設定しておいた座標などの情報を受信端末に送る仕組みである。GPS衛星それぞれに「PRN」と呼ぶ識別コードが1~32の範囲で付いているのと同様に、IMESを利用する送信モジュールにも173~182の識別コードを付与する。

これまで進められてきたIMES方式の実証実験などによって、「技術的にはほぼ完成しており、実用化段階に入った」(日立製作所の江端氏)とする。ところが、これまでに開発した試作機は、実装面積がA4判大で厚みが5cmと大型、しかも筐体に収めたタイプだったという(図1)。「設置するには工事が必要で、新たに電源やイーサネット・ケーブルを引き回したりする必要があった」(同氏)。これでは、実際に建物や地下街へ設置を促すには障壁が高い。

そこで同社は、屋内の無線基地局や非常灯、照明器具といった既存の機器に比較的容易に組み込めるようモジュール・タイプに変更するとともに、小型化や低消費電力化を図った品種を開発した。実装面積は6cm×3cmで、従来に比べて電源部を含めた体積を1/20に削減した。消費電力の具体的な値は明らかにしていないものの、従来比では1/30程度、単3型乾電池で25時間程度稼働させられるレベルだという。

小型化と低消費電力化を実現できた理由について同社は、「これまではハードウエアで演算していた部分を、ソフトウエアで処理可能なように工夫した」と説明した。また、屋内GPS信号の処理に独自の変調方式を採用した。その上で変調して得られたデジタル信号のうち、利用頻度の高いデータをあらかじめ作成しておくことで、使用するメモリー容量と演算負荷を1/1000にまで低減したという。これらの工夫で、FPGAとプロセッサを複数個使っていたものが、1つのプロセッサで処理できるようになった。このほか、高周波(RF)回路部の部品点数を削減したことも小型化に寄与した。

ただし、建物や地下街に設置する際の課題はまだ残っており、主に2つある。1つは、送信モジュールを設置した後、どのように管理するかという点である。具体的には、モジュール設置後に送信出力を調整したり、座標情報やID情報を書き込んだりする機能を組み込む必要がある。これについては、例えば近距離無線通信方式の1つである「IEEE 802.15.4」の無線機能と組み合わせることで実現する計画である。もう1つの課題は、信号の強度である。送信モジュールを使った場合でも、屋外でのGPS信号の受信強度と大きく変わらない、強過ぎないレベルの信号強度を安定して実現する必要がある。屋内と屋外の中間領域での、GPS信号と屋内GPS信号の干渉を防ぐためだとする。

2009年度中に、実際の利用シーンを想定した実証実験を行い、これら2つの課題解決を図る。利用シーンとしては、駅構内での道案内や店舗での広告配信などを想定している。提供開始の時期は、現在検討中として明らかにしていない。送信モジュールをSoC(System On Chip)化することも検討している。
 

GPS信号を常時取得
このほか、携帯電話機をはじめとした携帯型電子機器に組み込むGPS受信ICの改善も進んでいる。英Air Semiconductor社は、位置情報を継続的に取得可能なGPS関連技術「Always On」を開発し†1)、これを適用したIC「Airwave-1」のサンプル出荷を開始した(図2)。

この技術の特徴は、位置精度の高低を動的に調整する仕組みを実現したことで、GPS衛星を捕捉(トラッキング)して信号を受信する際の平均消費電流を1mAに抑えたことである。これによって、電池駆動の携帯型電子機器であっても、チップを常時動作させて、GPS信号を継続的に受信可能にした。

継続的に取得している位置情報は、自動的にチップ内部に保存する仕組みである。屋内に入ってGPS信号の受信レベルが下がり、位置情報を算出できなくなった場合でも、最後に保存した位置情報が使える。位置精度の観点からは難があるものの、「利用者が意識することなく、位置情報が常に更新・保持されることは、屋内で位置情報を利用したサービスを利用する際に重要だ」(同社のVice Pres-ident Business Development Asiaの和泉任一氏)と説明する。サンプル出荷を始めたAirwave-1はデジタル・カメラに向けた品種で、現在携帯電話機をはじめとした携帯型電子機器に向けた「Airwave-2」を開発中である。

また、セイコーエプソンとドイツInfineon Technologies社は共同で、受信感度が-165dBと高いことが特長のGPS受信IC「XPOSYS」を開発した。「A(Assisted)GPS方式のチップとしては、業界で最も高い感度を実現した」(セイコーエプソンのGPSビジネス推進部の部長を務める北沢豊氏)という。

特徴はこれだけではない。位置情報を算出するには、少なくとも4つのGPS衛星からのGPS信号を受信する必要がある。このとき、4つのGPS信号の受信強度がすべて-165dBと低くても、位置情報を算出可能だとする。従来のGPS受信ICでは、4つのGPS信号のうち少なくとも1つの受信強度が十分に大きい必要があったという。これらの改善によって、「従来のGPS受信ICでは、一般的なビルやオフィスの中では窓の近くでしか位置情報を得られなかった。これに対して、開発したチップではビルやオフィスの内部の窓から離れた場所でも位置情報を得られるようになった」(同氏)と主張する。
 

【参考文献】
†1)前川慎光、「位置情報を25msで取得可能、Air社が1mA消費のGPSチップ開発」、EE Times Japan、2008年6月号、no.36, p.23.


【EE Times Japan 2009年5月号「Building Blocks」、pp.16~17 掲載記事】

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