「読み出しにくいことに意味がある」、薄く大容量の光メモリーの開発目指す
インターネットを介していつでも、どこでも情報をやりとりできる「ユビキタス社会」。この社会では、個人情報を記録して常時携帯するために、紙のように薄くて大容量、しかもセキュリティ性が高い記録媒体が求められるはずだ――。
神戸大学はこのような考えの基、上記の3つの要件を満たすことを目指した記録媒体の開発に取り組んでいる。薄型の高分子材料の内部に、光を吸収する粒子を作り込むもので、「フォトニックスマートメディア」と呼ぶ。粒子の寸法や位置、形状を、いわばバーコードのように使うことで情報を記録する。外部から薄型媒体に光を当てた後、透過した光をカメラで検出・処理することで、記録した情報を読み取る仕組みである。書き込んだ情報が第3者に容易に読み取られないように、特殊な細工を高分子材料にあらかじめ施しておく。「面積が20mm×20mm、厚みが0.5mmの媒体で、100Mバイト程度の記録容量が得られる見込みだ。第3者が情報を読み取るために必要な計算量は膨大で、実行するのは現実的には不可能だろう」(神戸大学大学院工学研究科情報知能学専攻の教授である的場修氏)。
同氏はもともと、Blu-ray Discの次世代の記録媒体としてホログラム技術に注目した研究を進めていた。ところが、ホログラム技術を使った記録媒体を、すぐに実用化までこぎ着けるのは難しい。そこで、光の特徴を生かしつつ、実現が比較的容易な記録媒体技術を模索する中で、高分子材料に光を吸収する粒子を作り込む手法に着目した。現在、個人情報を記録する媒体として広く使われているICカードは、記録容量が1Mバイト程度と小さいという課題がある。大容量情報を記録可能で、高いセキュリティ性を兼ね備えるといった点で、現在の技術を使ったものは不十分だと考えている。
散乱係数を制御
フォトニックスマートメディアの構成は、すりガラスの内部に3次元バーコードを隠したような状態をイメージすると分かりやすい(図1)。3次元バーコードに相当するのが、高分子材料の内部に形成した微小な粒子である。実際には、エネルギの高い光を照射すると退色したり、逆に発色したりするフォトクロミック色素を活用して実現する。

一方の第3者に情報を読み出せないようにする、すりガラスに相当するものは、寸法が2μm程度で形状が円形の穴(空孔)を、高分子材料の内部にランダムに作り込むことで実現する。空孔の密度(数)をうまく設定することで、光がスムーズに透過せずにあちらこちらへと散らばる「散乱体」へと、高分子材料を変える。光の散らばり具合を表す指標である散乱係数は、空孔の寸法や密度などで調整する。
散乱体に書き込まれた情報を読み出す仕組みはこうだ。情報が記録してある散乱体(測定媒体)と、情報を記録していない散乱体(参照媒体)の光の通り具合の差をシミュレーションによって計算し、吸収体の分布(すなわち読み出したい情報)を計算する。具体的には、測定媒体に参照光を照射し、透過した通過光を平面に対する強度として測定する。一方で、参照媒体に同様な参照光を照射したときの透過光を計算する。このとき、測定媒体と参照媒体のそれぞれから得た透過光の強度の差は、測定媒体と参照媒体の吸収体分布がどれだけ異なっているかという情報を含む。そこで、参照媒体に配置した吸収体の分布を、測定媒体と参照媒体の透過光の強度差がゼロになるように繰り返し変えてシミュレーションする。強度差がゼロになれば、参照媒体の吸収体分布は測定媒体の吸収体分布に一致し、知りたい情報を抽出できたことになる。
現時点では、高分子材料で散乱体を試作して、散乱係数が変えられることを確認した段階である。高分子材料には、安価でリサイクル可能なポリメタクリル酸メチル(PMMA)を採用し、この材料にパルス・レーザーを集光させることで空孔を形成した。今後、吸収体分布を読み出すシステムの構築を進める。情報の読み出しについては現在のところ、計算機シミュレーションで確認するにとどまっている。現在は基礎研究の段階だが、5年後には記録媒体として動かすデモを見せられるように、試作システムの完成を目指す。
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