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思えば、きつかったのは走る前
横河ディジタルコンピュータ 大垣憲和氏

 大垣憲和氏は、組み込みソフトウエアの開発支援ツールを手掛ける横河ディジタルコンピュータで働く技術者である。2009年6月に発表した「adviceLUNA(アドバイスルナ)」と呼ぶデバッグ・ツールの開発リーダーを務めた。これまで提供してきた「ICE(In Circuit Emulator)」を使ったデバッグ・ツールに、「システム・マクロトレース」という動的解析ツールを新たに追加したものである。print文で出力したデバッグ情報を表形式で閲覧しながら、関数の実行履歴や状態をグラフ表示できる。「新製品を紹介した展示会では、ひっきりなしに来るお客さんの対応が、とても大変だった」(同氏)と笑顔で語ってくれた。

 

EE Times Japan(EETJ) 新製品開発で苦労したことは。

大垣氏 プロジェクト・リーダーを初めて任されたことだろうか。今まで、プロジェクトの一部のまとめ役を担当したことはあったものの、全体のまとめ役ではなかった。しかも、2009年6月に発表した新製品はこれまでの延長線上にあるのではなく、システムの全体像を見せるという新たなコンセプトを盛り込んだものだ。今までに無い製品を作り上げるという、これまでとは違う難しさがあった。

 「もの作り」の現場は、ここ数年で急激に変化してきた。多機能化が進む携帯電話機を例に挙げると、ソフトウエアの開発メンバーは何十人の規模に達する。さらに、さまざまな企業が共同で開発するようになってきた。このような状況では、これまで一般的だった「動作を止めて内部の状態を見る」というデバッグ手法には限界が訪れていた。個人の開発範囲や単体テストなら、これまでの手法でも対応できたかもしれない。しかし、システム全体を実機で動作させたときには、難しい。多大な工数を掛けてソフトウエアの品質を高めているのが現状だ。今回のツールを使えば、作成したプログラムが全体の中でどのように動作しているかなどを、可視化して把握できる。

EETJ 開発は順調に進んだのか。

大垣氏 一番厳しかったのは、開発を本格的に始める前段階だったのかもしれない。当然のことながら、開発を正式にスタートさせるには、上司を説得する必要がある。技術だけであれば、実現できるか、できないかという議論が重要だ。しかし、開発に着手するにはそれだけでは不十分で、「本当に売れるのかどうか」というビジネスの視点が必要になる。企画を立てた後、合意をもらうまでに半年以上かかった。

 従来品とはコンセプトが大きく変わった製品なので、会社もだいぶ慎重だった。技術を担当する身としては当然、新たな機能を盛り込みたい。しかし、「やります、売れます」と言っても根拠が無く、納得してはくれない。対象市場はどこか、顧客のニーズは何か、市場背景はどうなっているのか、そういった製品のコンセプトや仕様を、きちんとまとめ上げて周囲を説得する必要があった。今、手元にある新製品の紹介資料には、市場の現状や顧客の悩みといった情報が細かくまとめられている。はたから見ると、この製品を売り込むために用意したものと思うだろう。しかし実は、開発をスタートさせるために用意したものだ。

 最終的に会社を説得できたきっかけは、複数の顧客の声だった。要望を数多く集めて、提案が受け入れられていることを示した。さらに、採用意思を表明してもらって、一緒に開発プロジェクトを立ち上げたのだ。完成後に最終製品を持って行くのではなくて、開発している途中でも試作機を顧客の環境で動かして、要望を反映させていった。

EETJ 日々、心掛けていることは。

大垣氏 自分の持っている思い込みや固定観念を、いかに打ち壊すかを考えている。自社製品を開発しているとどうしても、「当社の製品はこのような守備範囲だ、この機能はこうあるべきだ」という固定観念にとらわれてしまうことがある。そうすると、新たな製品を開発するネタがあったとしても、知らず知らずのうちに、頭が拒否してしまうかもしれない。

 ようやく製品出荷だ、というタイミングなのに「次はいつ新たな製品を作るのか」と聞かれてしまった。次々と新たな製品開発を続けていくために、積極的に会社の外に出て顧客に会い、開発のヒントを集めたいと考えている。

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