Analog ABC

番外編 アナログ回路設計のエンジン(後編)

 前回は回路シミュレータを使って、直流解析と交流解析、過渡解析という3種類の解析が実行できることを紹介しました。解析のメカニズムについて不思議に思った方も多いのではないでしょうか。「ネットリストを基に回路の接続状態をどのように理解するのか」、あるいは「周波数や時間の変化に伴って変わるインピーダンスを基に、電圧や電流をどのように計算するのか」など、疑問はいろいろと浮かびます。

 長年アナログ回路設計に携わっている著者にも詳細は分かりません。ですが、「NODAL ANALYSIS」と呼ぶ解析がすべての基本になっています。NODALは、NODEが「こぶ」なので直訳すると「こぶのような」となり、接点(ノード)解析と訳せます。

図1
図1 ノード解析が基本
ノード解析では、ノードに流れ込む電流と流れ出す電流が同じであることに注目します。

接点を流れる電流に注目

 図1の回路を例にノード解析の概略について説明しましょう。まず、回路情報から連立方程式を立てます。その基本となっている規則は、「the sum of currents in and out of a node is zero(ノード(接点)に流れ込む電流と流れ出る電流の総和はゼロ)」というものです(キルヒホッフの第1法則)。

 接点では、電流をためておけないので当たり前のことのように感じますが、これが重要な法則なのです。図1のノードV1について考えると、方程式は以下のようになります。

shiki

ここでは、ノードに流れ込む電流を負で、流れ出す電流を正の符号で表します。 次に、ノードV2に着目すると次の式が得られます。

shiki

これらの式をV1とV2について整理すると、次の式が得られます。

shiki

これを行列で表すと、以下の式のようになります。

shiki

電圧の値は、逆行列を使った次の計算で求められます。

shiki

 筆者は行列の計算が苦手なのですが、計算機は得意なようです。逆行列を求める手法はいろいろあります。

 この逆行列を使った式で、電流源ISの値を変化させながらノード解析(V1とV2の値の計算)を繰り返したのがDC解析です。抵抗はそのままに、インダクタやコンデンサを、インピーダンスや位相の情報を持つ複素数表記にして計算すれば、AC解析になります。時間の刻み具合に合わせてコンデンサやインダクタを電流源や電圧源で等価的に置き換えて、ノード解析を時間刻みごとに実行しているのが過渡解析です。

図2
図2 レイアウト作業後の回路
部品を配置したり、配線したりするレイアウト作業の後に、寄生デバイスをツールによって抽出します(b)。

寄生容量を考慮する

 いろいろな解析を紹介しましたが、大事な説明を忘れていました。それは、「モデル」のことです。CMOSやバイポーラ・トランジスタなどの半導体デバイスは、抵抗やコンデンサ、インダクタ、依存電源を使った等価モデルに置き換えて、シミュレーションを実行します。この等価モデルがどの程度実際のデバイスと一致しているのかを、しっかり把握しておく必要があるのです。

 回路シミュレーションを使った設計工程と、試作デバイスを使った実測結果を比べて特性が合わないといったトラブルは、等価モデルと実際のデバイスとの特性のずれが一因です。等価モデルは、温度や電源、製造バラツキ(絶対値や相対値)の影響も実際のデバイスと一致するように調整されています。ですが、その「度合い」を回路設計者は十分理解しておく必要があるということです。

 回路の動作速度が速くなると、回路図には見えない部品の影響が大きくなってきます。つまり、寄生デバイスの影響です。寄生デバイスは、部品を配置したり、部品間を配線したりするレイアウト作業の後、ツールによって抽出します(図2)。手作業で、寄生デバイスを抽出することも可能ですが、時間がかかります。

 これらの寄生デバイスの影響をあらかじめ考慮したアナログ回路を設計し、レイアウトした後のシミュレーションで大きな特性劣化が発生しないようにするのが、回路設計エンジニアの腕の見せ所と言えます。

自らの答えを持つ

 最近ではパソコン用プロセッサの処理性能が高くなってきているので、シミュレータが出す答えがすべて正しいように錯覚してしまうことがあります。シミュレータは指示した通りに、入力したデータを基に計算するツールであって、指示内容や入力データに誤りがあった場合でも、そのまま何らかの答えを出力します。

 シミュレータが出す答えが正しいかどうかは、ツールの操作や使い方が正しいかどうかではなく、自らが予測した結果と同じかどうかで判断するのです。そのためには、自分自身であらかじめ答えを予測しておく必要があります。つまり、自分自身で「設計」するのです。

 回路シミュレータは、設計した内容が予測通りかどうかを確認するための道具であって、回路設計者に代わって設計してくれる道具ではないのです。このことをよく理解して使ってこそ、シミュレータの真価が発揮されるにではないかと日々思っています。

記事一覧

PR