受動部品の選定作業を容易に、ネット介したサービスがさらに充実

 コンデンサやインダクタ、フィルタなどの選定を支援するソフトウエア・ツールの拡充が進んでいる。受動部品メーカーが、顧客である電子機器メーカーの回路設計者に向けて、ウェブサイトで提供中だ。さまざまな特性を考慮しながら採用候補を簡単に絞り込める(図1)。こうしたツールの拡充で受動部品メーカーは、新規顧客の獲得などによる拡販のほか、営業部門において顧客から受けた情報提供の要請に対応する負荷の軽減を狙う。

図1 受動部品の選定支援ツールの例
TDKが提供する部品検索/特性閲覧ツール「Components Characteristic Viewer」である。左上の操作画面から中央、右下へと3つのステップで部品を絞り込んで特性を表示する。ここでは部品種別から「3端子フィルタ」を選び(左上)、周波数特性として特定の周波数における減衰量を指定して絞り込み(中央)、当てはまる品種から外形が同じものを2つ選んで各Sパラメータの周波数特性を表示した(右下)。

機能は単純でも選定は複雑

 受動部品は、半導体チップなどの能動部品に比べると、機能そのものは単純である。すなわちコンデンサであれば電荷と電圧の関係を定義し、インダクタであれば磁束と電流の関係を定義するというのが基本的な機能だ。しかし、回路設計時に適切な受動部品を選定する作業は、それほど単純ではない。

その理由としては第1に、検討すべき特性が多岐にわたることが挙げられる。例えばコンデンサの選定を考えてみよう。もちろん静電容量や外形、耐圧などの基本的な特性だけで選定できる場合もある。ところが実際にはこれらに加えて、周波数特性や温度特性、直流(DC)バイアス特性などを考慮しなければならない場合が多い。

第2の理由は、選定の対象になる品種が極めて多いことである。受動部品の大手メーカーは、特性が異なる数百∼数千もの品種を用意している。例えばコンデンサでは、静電容量が同じ値でもそのほかのさまざまな特性が異なる何十もの品種が入手可能だ。これらの中から、前述のように数多くの特性を多面的に考慮して、適切な品種を選定しなければならない。

かつて回路設計者は、メーカーが提供する紙のカタログを見たり、サンプル品を入手して試作機に実装したりすることで受動部品を選定していた。ところが 1990年代の後半には、設計期間の短縮や設計品質の向上を狙って、コンピュータ・シミュレーションを活用したいわゆる「机上設計」が広く普及した。

そうすると、サンプル品による評価の前に、机上で部品の選定を済ませたいという要求が高まる。これに、インターネットの普及や、通信速度の向上というインフラの整備が重なった。この結果、受動部品メーカーは1990年代の後半以降、ウェブサイトを介して電子的な特性データや選定支援ツールを提供し始めた。例えば受動部品大手メーカーの村田製作所は、「1997年に、Sパラメータの測定データをウェブサイト上で公開し始めた。続いて1998年には、積層セラミック・コンデンサとチップ・コイルのSパラメータとインピーダンスを計算して表示するツールのダウンロード・サービスを始めた」という。

現在、提供されているサービスの内容は、受動部品メーカー各社で異なっている(表1)。こうした中、2008年4月に、受動部品の大手メーカーであるTDKと太陽誘電が相次いで、ウェブサイトでの情報提供サービスの拡充を発表した。

表1 受動部品メーカーがウェブサイトで提供するサービスの例
2008年5月時点の状況をまとめた。Sパラメータや等価回路/SPICEネットリスト、モデル・ライブラリについてはいずれも、各社がウェブサイト上で一般公開しているものを「提供中」とした。従って、この表で提供中と示していない場合でも、ほとんどのメーカーは、顧客ごとの要求に応じて個別に提供している。

 TDKは、2004年6月から提供している部品選定支援ツール「Components Characteristic Viewer(CCV)」の機能を高めた。このツールは、ユーザーの手元で動作するウェブ・ブラウザ上で、部品の特性情報をグラフ表示するビューア機能を備えたウェブ・アプリケーションである*1)。同社が供給する受動部品の中から、さまざまな検索項目(パラメータ)に特性が当てはまる品種を絞り込める。

もう一方の太陽誘電は、同様の機能を備えるビューアを同社としては初めて開発し、提供を始めた。「Taiyo Yuden Components Selection Guide & Data Library」と呼ぶ。TDKのCCVとは異なり、太陽誘電のウェブサイトからダウンロードし、手元のパソコンにインストールして使う*2)

同様のビューアはこのほか、国内の大手受動部品メーカーである村田製作所も以前から提供していた*3)。このため後発となる太陽誘電は、「ビューアとしての操作性を高めることで、先行する競合他社のツールに比べて独自性を出した」という。

直流バイアス特性と温度特性に対応

 TDKが投入したCCVの新バージョン「Ver.2.01.00」では、コンデンサとインダクタについて、DCバイアス特性と温度特性を表示できるようにした*4)図2)。従来版は周波数特性の表示にとどまっていた。

図2 DCバイアス特性と温度特性を表示
表面実装型の巻線インダクタ2品種について、(a)DCバイアス(直流重畳)特性と(b)温度特性を表示させた例である。DCバイアス特性については、あらかじめ設定された複数の異なる温度条件における特性を切り替えて表示可能だ。温度特性についても同様に、異なるDCバイアス条件における特性を表示できる。

 この改良によってユーザーは、「特に電源回路などの設計時に、実際の使用条件に近い状態における受動部品の特性を確認できるようになる」(同社)という。電源回路では電力を扱うため、構成部品に大きなDCバイアスがかかったり、発熱によって温度が変動したりする。このほか、電源回路とその負荷であるマイコンなどとの間にデカップリング用に挿入するコンデンサも、電源回路の出力電圧がDCバイアスとして印加される上に、負荷による発熱の影響を受ける可能性がある。

もちろん紙のカタログやそれをPDF形式で電子化したカタログにも、DCバイアス特性や温度特性は掲載されている。ところがこうしたカタログに掲載されているのは、「DCバイアス特性については常温における特性で、温度特性についてはDCバイアスを印加していない場合の特性だけだった」(TDK)。つまりユーザーは、実際の使用条件とは異なる条件で部品を選定しなければならない場合が多かった。

そこでCCVでは、DCバイアス特性については複数の温度条件における特性を、温度特性については複数のDCバイアス条件における特性をそれぞれ用意した。ユーザーはCCV上で、想定する使用条件に近い条件における特性を選択して閲覧できる。従来こうした特性情報を得るには、TDKに対して営業担当者などを介して提供を要請する必要があり、ユーザーの手間が大きかった。

ただし現時点では、CCVに特性を収録した受動部品のすべてについてDCバイアス特性と温度特性を閲覧できるわけではない。コンデンサについては約1200品種のうち33%程度、インダクタについては約1400品種のうち46%程度である。

これについてTDKは、「今後、これらの特性の閲覧に対応する品種を増やしていく。ただし現時点でも、実際にユーザーがDCバイアス特性と温度特性を評価する必要がある品種に限定すれば、すでにコンデンサは52%、インダクタは95%をカバーしている」と説明する。例えば、いわゆる「温度補償用コンデンサ」など、特性の温度依存性がもともと低く抑えられている品種については、選定の際に温度特性を評価する必要がないからだ。

絞り込み検索の使い勝手に工夫

 太陽誘電が提供を始めたビューアのTaiyo Yuden Components Selection Guide & Data Libraryでは、紙やPDF形式で一般に提供しているカタログと同様の特性情報に加えて、同社が「テクニカル・データ」と呼ぶ詳細な特性情報も閲覧できる。

例えばコンデンサについては、品種によって若干異なるが、カタログに掲載されている特性は基本的に、静電容量とインピーダンス、等価直列抵抗(ESR)の周波数特性のほか、静電容量の温度特性にとどまる。これに対し、テクニカル・データは通常、顧客からの要求に応じて品質保証部門が提供する特性情報で、等価直列インダクタンスの周波数特性や、静電容量のDCバイアス特性といった特性情報が含まれる。

操作性で工夫した点は、さまざまなパラメータを指定して品種を絞り込む検索機能である。複数のパラメータを任意の順番で指定して絞り込めるようにした(図3)。例えば村田製作所が提供しているビューアの「Murata Chip S-Parameter & Impedance Library」や「Murata Chip Capacitor Characteristics Data Library」では必ず、コンデンサの外形(実装面積)⇒静電容量の温度係数(TCC)⇒静電容量⇒耐圧の順に指定して絞り込む必要がある。これに対し太陽誘電のビューアでは、静電容量のみを指定して絞り込んだり、静電容量を先に指定して絞り込んだ品種の中から所望の外形の品種を選んだりといった柔軟な使い方が可能だ。「絞り込みの際に優先するパラメータは、ユーザーごとに、あるいは設計案件ごとに異なる」(太陽誘電)。

図3 絞り込み検索の柔軟性が高い
(a)太陽誘電のビューアでは、複数のパラメータを任意の順番で指定しながら絞り込める。例えばコンデンサの検索では、静電容量や外形、厚み、温度係数、耐圧をパラメータとして指定できる。指定しないパラメータについては、すべての品種が対象になる。(b)村田製作所のビューアでは、複数のパラメータすべてをあらかじめ決められた順番に従って指定しなければ、対象となる品種が表示されない。

 さらに、検索パラメータとして部品の厚みを指定できるようにした。「低背品を容易に検索できる」(同社)というメリットがある。他社が提供するビューアの検索機能では、外形として「0603サイズ(0.6mm×0.3mm)」や「1005(1.0mm×0.5mm)」といった実装面積のパラメータしか指定できない。ユーザーが厚みを確認するためには、品種を絞り込んだ後で、さらにその品種の詳細情報を表示させる必要があった。

多言語対応を進める

 受動部品メーカー各社の選定支援ツールは、受動部品ユーザーに確実に定着しつつあるようだ。TDKによれば、「ビューアであるCCVへのアクセス数は、提供を始めた2004年を100とすると、2006年には366、2007年には560に伸びた。今回のバージョン・アップの効果で、2008年には 1000に達する見込みだ」という。村田製作所は、「ビューアなどのツールと、Sパラメータなどの特性データのダウンロード件数を合計すると、現在のところ月間数千件で安定して推移している。『固定客』が付いているといえるだろう」としている。

こうした中で受動部品メーカー各社が声をそろえるのは、「部品選定支援のオンライン・サービスに、海外からのアクセスが増えている」ことだ。特に、台湾や中国、韓国などアジア圏からのアクセスが多いという。

そこで各社は、オンライン・サービスの多言語対応を進める考えだ。太陽誘電は、「ビューアの中国語版を今期中(2009年3月末まで)にも公開する。このほか中国語版に先行して、2008年夏に英語版を用意するほか、将来的には韓国語版も検討する」という。

TDKのビューアはすでに日本語と英語の両方に対応しており、「2010年初頭にも中国語に対応する」(同社)。村田製作所もビューアをはじめとしたツール群のダウンロード・サイトや、各ツールのヘルプ・メニューについて、「具体的な時期は未定だが、中国語などの多国語対応を進める」とする。

ウェブ・アプリ化を検討中

 このほか、太陽誘電と村田製作所は、時期については明言していないが、将来的にビューアをウェブ・アプリケーション化することを検討中だという(図4)。村田製作所は、「すでに当社のSパラメータのダウンロード・サイトでは、周波数特性やスミス・チャートを表示するウェブ・アプリケーションを提供しており、下地はできている。これを拡張することで対応する」という。

図4 ウェブ・アプリとデスクトップ・アプリ
(a)は、ウェブ・アプリケーションとして提供されている特性ビューアの例である。(b)は、実行ファイルやインストーラをユーザー側パソコンにダウンロードして、オフライン環境で利用するデスクトップ・アプリケーション型の特性ビューアの例。各ビューアのタイトル・バー(ウインドウの最上部)に注目すると、(a)ではアプリケーションとして米Microsoft社のウェブ・ブラウザ「Internet Explorer」が、(b)では各ビューア(専用ソフトウエア)が動作しているのが分かる。

 現在のところ太陽誘電と村田製作所の提供形態では、先に述べた通り、実行ファイルやインストーラ・ソフトウエアをユーザーがダウンロードして、パソコンにインストールする必要がある。すなわちインターネット経由で提供してはいるものの、実際にはユーザー側のパソコンで「デスクトップ・アプリケーション」として動作する。

ウェブ・アプリケーション化は、ユーザーにとっていくつかメリットがある。第1に、ダウンロード作業とインストール作業が不要だ。第2に、常に最新の特性情報を閲覧できる。ビューアが受動部品メーカー側に設置したデータベースを参照するようになるからだ。現在の提供形態ではデータベースもユーザー側のパソコンに格納されており、受動部品メーカーがデータベースを更新した新バージョンを公開しても、ユーザーが能動的にこれをダウンロードし、インストールしない限りパソコン内の特性情報は更新されない。第3に、パソコンに搭載したOSへの依存性がなくなる。現在はWindows搭載パソコン向けだが、ウェブ・ブラウザさえあれば、Mac OSやLinux、UNIXを搭載したパソコンからでも利用可能になる。

特性情報の妥当性に注意

 このように多言語対応やウェブ・アプリケーション化などで方向性の一致を見せる受動部品メーカー各社だが、提供する特性情報そのものについては、考え方に温度差がある。例えば、各社のビューアが表示する特性情報は、Sパラメータやインピーダンスの測定値を基にしている点では同じだが、それらの測定範囲や測定間隔、測定点数といった条件が必ずしも各社同じではない上に、測定治具も各社で異なっている。

さらにビューアでは、表示される特性が必ずしも測定データそのものであるとは限らない。何点かの測定データを基に、測定データが存在していない点の値を内挿法(補間)によって計算して全体の特性を描き出す場合がある。例えばTDKのCCVでは、DCバイアス特性と温度特性をこの手法を使って表示しているという。

このほか村田製作所が提供するビューアのMurata Chip S-Parameter & Impedance Libraryについては、Sパラメータの測定データを基に作成した等価回路をライブラリ化して内蔵しており、Sパラメータの測定データ自体は収録していない。従ってこのビューア上で表示するSパラメータやインピーダンスなどの特性はいずれも、等価回路を使って計算によって求めたものである(図5)。Sパラメータの測定データは、ビューアとは別にダウンロード・サイトを設けて提供している。

図5 表示特性が実測値とは限らない
村田製作所が提供するビューアのダウンロード・サイトである。さまざまな特性を「計算して表示する」と明記されている(矢印で示した部分)。実測値を基にしているものの、表示される特性は計算値であり、実測値そのものではない。詳細については、各ビューアが備えるヘルプ・ファイルに記載されている。

 もちろん各社がウェブサイトで提供するこれらの特性情報は、いずれも「部品選定用の参考値」という位置付けであり、「設計用の保証値」ではない。採用して機器に組み込む際には、さらに詳細な仕様や特性を明記した「納入仕様書」を受動部品メーカーに請求し、その内容を確認する必要がある。しかし、だからといって受動部品メーカーごとの特性情報の差異を無視できるとは限らない。従ってユーザーは、ビューア上で特性を確認したり、電子的な特性データを入手してシミュレーションを実行したりする際に、特性情報の精度がそれぞれの評価条件において妥当かどうかを必要に応じて検証すべきだろう。

各社の比較には使えない

 このほか、各社が提供するビューアでは、各受動部品メーカーの品種についてしか特性情報を閲覧できないことにも注意してほしい。すなわち同じメーカーが供給する複数の品種の特性をそのメーカーのビューア上に並べて表示し、比較検討することは可能だが、異なるメーカーの同等品の特性を単一のビューア上に並べて表示することはできない。受動部品大手メーカーのパナソニックエレクトロニックデバイスは、「ユーザーが最も望んでいるのは、異なるメーカーの部品を比較した上で選定することだ」と指摘する。

異なるメーカーが提供する受動部品の机上比較を実現するには、Sパラメータや等価回路モデルなどの電子的な特性データを読み込んで表示できる機能を備えたシミュレーション・ソフトウエア(シミュレータ)を使う方法がある(図6)。例えば、EDAツール・ベンダーの米Ansoft社が無償で提供する「Ansoft Designer SV」などを利用すればよい*5)。「こうしたシミュレータを使えば、各社の部品特性を簡単に比較できる」(パナソニック エレクトロニックデバイス)。

図6 シミュレータで各社の部品特性を比較する
米Ansoft社が無償提供するシミュレータ「Ansoft Designer SV」に、受動部品各社がウェブサイト上で公開しているSパラメータ・データを読み込んで、Sパラメータの周波数特性をグラフ表示した。いずれも 6.8nHの積層インダクタのS21(透過)特性だが、共振周波数に差異があることが読み取れる。

 しかも実際には、シミュレータを使わずに特性データの比較だけで部品を選定したい、周辺部品と組み合わせた回路全体の挙動をシミュレータ上で解析したいといった具合に、ユーザーや設計案件ごとに異なるニーズが存在する。このためパナソニックエレクトロニックデバイスは、「カタログと、シミュレータで利用できる電子的な特性データを提供すれば、いずれのニーズにも応えられる。こうした観点から、当社ではビューアを提供していない」と説明する。

【注釈】
*1)TDKのウェブサイトで、無償で利用可能である。ユーザー登録は不要。URLは以下の通り。http://www.tdk.co.jp/ccv/index.asp

*2)太陽誘電のウェブサイトから無償でダウンロードして利用できる。ユーザー登録は不要。URLは以下の通り。http://www.yuden.co.jp/jp/product/tool/

*3)村田製作所のウェブサイトから無償でダウンロードして利用できる。ユーザー登録は不要。URLは以下の通り。http://www.murata.co.jp/designlib/

*4)ここでDCバイアス特性とは、印加する直流電圧や直流電流の大きさに対する受動部品の特性変化率を指す。具体的には、コンデンサについては印加した直流電圧に対する静電容量の変化率、インダクタについては印加した直流電流に対するインダクタンスの変化率で表す。なおインダクタのDCバイアス特性は、慣例的に直流重畳特性と呼ぶ。温度特性は、温度変化に対する各受動部品の特性変化率である。
*5)「Ansoft Designer SV(Student Version)」は、米Ansoft社が開発/販売する電磁界/回路/システム解析の統合シミュレータ「Ansoft Designer」の機能を限定した無償版である。日本法人であるアンソフト・ジャパンのウェブサイト(http://www.ansoft.co.jp/)の「DOWNLOADS」メニューから入手可能だ。ユーザー登録が必要である。なおAnsoft社は、米ANSYS社による買収契約に2008年3月に正式に調印しており、同年6月までに買収が完了する予定である。

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