Tear Down

携帯電話用リピータ「WiEx」を分解、個別部品をうまく使ってコスト抑制

 またもや、米Portelligent社のスタッフの「不運」を製品分解記事に生かすことになった(図1)。当社(Portelligent社)は、さまざまな電子機器の分解レポートの作成を手がけている。以前、落雷が原因で、当社スタッフの自動車のタイヤ圧センサーを分解することになった。今回紹介する携帯電話リピータ(中継器)を分解するきっかけも落雷だった。日照りが続いていたときにやってきたありがたい暴雨だったが、落雷によって少なくともリピータのアンテナと電源部分が故障してしまった。もちろん、さっそく分解してみようというのがスタッフの最初の反応だ。

図1

 

図1 デュアル・バンド対応の携帯電話リピータ「WiEx」
中継基地局からの無線信号を携帯電話機に向けて増幅し、一方で携帯電話機が送信した信号は中継基地局に向けて増幅する。850MHz帯と1.9GHz帯に対応した。

高い受信強度を得るために必要

 携帯電話のリピータは、携帯電話が受信する信号の強度低下に対処するために用いる。リピータを使えば、通信が切断してしまう可能性が高い状況でも、通信品質を確保するために十分な受信強度を得られる。

 さまざまな建造物が密集した地域では、電波の中継基地局の数が多い場合でも通信が不安定になってしまうときがある。マルチパス干渉が原因で、受信強度が急激に低下する「デッド・スポット」が発生するためだ。ときには、建造物の材料や内部構造によって、無線信号が減衰することもある。通信品質の低下は、中継基地局の密度が低い地方ではより顕著な問題だろう。固定電話を使わずに、携帯電話機を利用している当社のスタッフは、携帯電話機だけで十分なようにリピータを導入した。おおかたうまく機能していたようで、導入前は携帯電話機のディスプレイ上での強度表示が0~1本と少なかったのが、導入後は4本にまで増えていた。

 すべての無線リピータは、基本的に同じ原理で動作している。外部から微弱な無線信号を取り込んで増幅した後に、増幅した無線信号を再度送り出す。携帯電話機に向けたアンテナと中継基地局に向けたアンテナを備えた、双方向アンプと考えると分かりやすい。中継基地局に近づけたときと同様の効果があり、携帯電話機だけのときよりも受信強度が高まる。

 思わぬ効果もある。離れた場所にある中継基地局に直接接続して、携帯電話機が大出力で送信するときよりも、消費電力を削減できるようだ。一般に、携帯電話機の送信電力は、中継基地局が離れた環境で通常よりも大きくなる。通信品質は高まるものの、その分だけ消費電力が増大してしまい、電池の駆動時間が短くなってしまう弊害が生じる。リピータを使えば、送信電力を大きくせずとも通信品質を確保しやすくなるわけだ。

信号の再増幅を避ける

 前述の基本原理から考えると、リピータはごく単純な機能を備えた電子機器である。ただし、高周波(RF)回路の設計という観点では、それほど単純ではない。今回紹介するCDMA(Code Division Multiple Access)対応の携帯電話機リピータ「Wireless Extenders YX 510-PCS/CEL」(WiEx)の場合、ディスクリート部品(個別部品)を使った高周波回路の設計が課題の1つだろう。

 WiEx では、比較的小規模な集積回路(Small Scale Integration)と膨大な数のディスクリート部品を、1枚のプリント基板に実装した(図2)。図2の左側に相当する中継基地局用のアンテナ(「ドナー・アンテナ」と呼ぶ)端子付近の最終段回路には、表面実装のシールド・カンを取り付けてある。数多くのディスクリート部品を実装したのは、増幅回路の利得を慎重に調整するためだろう。一般に、中継基地局と無線信号をやりとりして増幅する「ドナー・アンプ」と、携帯電話機側の「レセプタ・アンプ」が同じ場所にあると、回路が発振してしまう可能性がある。リピータは基本的に、中継基地局からの無線信号を携帯電話機に向けて増幅するのに加えて、携帯電話機が送信した信号を中継基地局に向けて増幅するという双方向増幅器である。従って、高周波回路をうまく設計しなければ、リピータで送信した信号を受信し、再増幅してしまう。

 事実、メーカーは、ドナー・アンテナとリピータ本体を離して設定するように勧めている。ドナー・アンテナとリピータの距離が短いと、正のフィードバックが発生することで、増幅回路が発振してしまう危険性があるからだ。

図2

 

図2 小規模な集積回路とディスクリート部品で構成
ディスクリート部品を数多く使いながら、信号遅延による悪影響や発振現象の抑制、増幅回路の利得制御といった、高周波回路にまつわる課題をうまく防いだ。

850MHz帯と1.9GHz帯に対応

 高周波回路を具体的に見てみよう。図2の左側にはシールドした回路ブロックが3つある。上から順に、1.9GHz帯のRFトランシーバ回路、850MHz帯と1.9GHz帯のデュプレクサ回路、850MHz帯のRFトランシーバ回路である。一方のプリント基板上でシールドしていない2/3の領域の回路は主に、携帯電話機側に向けて、デュアル・バンドのトランシーバ回路とデュプレクサ回路を構成したものである。

 パワー・アンプICには、米RF Micro Devices(RFMD)社や米ANADIGICS社の品種を使った。RFMD社の「RF2196」とANADIGICS社の「AWT6113」が1.9GHz帯の増幅を担当し、RFMD社の「RF2192」が850MHz帯の増幅を担当している。プリント基板上の配置だけでは分かりにくいものの、1.9GHz帯ではANADIGICS社のパワー・アンプICの前段階での増幅に、RFMD社のパワー・アンプICを使っているようだ。シールドしていない回路ブロックには、パワー・アンプICのほかに、米M/ACom社*1)や米Hittite Microwave社のRFアッテネータなどが実装してある。

 これらの高周波部品とともに、米Atmel社の8ビット・マイコン「ATMega168」を使った。このマイコンのアナログ周辺回路が、RFパワー・ディテクタとRFアッテネータの調整を担当している。増幅回路全体の利得をうまく制御するためである。RFパワー・ディテクタには、米Linear Technology社の「LTC5505」を使っている。図2では数が多すぎて分かりにくいものの、20個を超えるディスクリート部品を採用した。

 上記の比較的小規模なICや複数のパワー・アンプICのほかには、複数の受動部品も活用した。具体的には、850MHz帯の段間フィルタではSAW(Surface Acoustic Wave)フィルタを使い、より周波数が高い1.9GHz帯にはセラミック共振器を採用した。セラミック共振器は、SAWフィルタに比べて寸法が大きく、かさばる。しかし、セラミック共振器の方が広い周波数帯域に対して挿入損失が小さく、価格も安価である。

部品コストは100米ドル以下

 原理的にシンプルながらも、汎用の半導体部品を使って巧妙に設計した高周波製品を見るのは、とてもうれしいことだ。回路規模の大きなASICが好んで採用される中で、ディスクリート部品を活用したのは特筆すべき点である。

 確かに、信号遅延による悪影響や発振現象の抑制、増幅回路の利得制御といった、高周波回路設計にまつわる数多くの課題がある。これらの課題を解決しながら、開発期間が長くなってしまうASICの採用を回避し、部品コストを抑え、洗練した高周波回路を開発したことが素晴らしい。

 販売価格が300米ドル前後であるのに対して、部品コスト(BOM:Bill of Material)は100米ドル以下のようだ。低価格の部品戦略によって、おそらくかなりの利益を得ているだろう。

記事一覧

PR